音屋吉右衛門(世良公則×野村義男) 音屋吉右衛門
(世良公則×野村義男)

INFORMATION

音楽というメッセージがパーケージ化されたライヴアルバム『ツイストノウタ』 を考察した解説文(ダイジェスト版)公開!

 音楽はメッセージだ──。

 2021年11月28日、大阪・なんばHatchにて開催された『音屋吉右衛門(世良公則×野村義男)LIVE 2021 ~さぁ、どこからでもかかってきなさい!ツイスト大盛りフェア!~』で響いた音を浴び、そこにあった空気に触れ、改めて感じた。
 例えば、世良公則や佐野元春、Char、野口五郎という今も音楽の世界でサバイヴする同世代のアーティストがフィーチャリング参加した桑田佳祐の「時代遅れのRock’n’Roll Band」。
この曲と、ビッグネームなミュージシャンたちが揃い、生き生きとギターを弾き歌う姿に“自分たちもまだまだ”と奮起した同世代は大勢いただろう。
そして世代を超えてコロナ禍の閉塞感や、2022年2月に開始された軍事侵攻に想いを馳せ、願い、祈りを重ねた方も多いはずだ。
もちろん、大きな話だけではない。好きなアーティストの曲、街で流れていた曲を聴いて少し気持ちが軽くなった、楽しくなった。
こういったマジックが起こるのもまた、曲にある“楽しさ”というメッセージを受けとった証である。
 そういった当たり前のことを改めてガツンと再認識させてくれたのが、11月28日の音屋吉右衛門のライヴだったのだ。
 そもそも大阪は世良公則にとって、デビューのきっかけの地であり特別な場所である。そしてあのなんばHatchでのライヴは、3日前にデビュー44周年を迎えたばかりの彼から贈られたスペシャルな公演だった。

 開演時間の17時、暗転した場内にSEが流れ始め、客席では手拍子が打たれる。
野村義男と世良公則がステージ下手側から姿を現し、深く一礼。セッティングされていた椅子に座り、アコースティックギターを手にする。
そしてそのままスピーディなオープニングナンバー「音屋吉右衛門のテーマ」を掻き鳴らす。
世良と野村がアコースティックユニット・音屋吉右衛門を組んだのが2006年、さらに世良のバンドスタイルのライヴでもGUILD 9のメンバーとして競演している2人だけに、冒頭からアンサンブルは息がピッタリ。
心地良いヒリツキを生みながら一気に会場を飲み込んでいく。

 1曲終え、世良が叫ぶ。

 「Let’s ROCK’N’ROLL!」

 カウントを合図に、2本のギターがフィーリングたっぷりのロックンロールを吐き出す。世良が熱を帯びた歌を歌う。横揺れのグルーヴが観客の体を揺らす。
曲は「知らんぷり」。世良公則&ツイストのデビュー・シングル『あんたのバラード』のB面に収録されたナンバーである。
“オマエに会いに ここまで来た”、親愛と喜びのこもった歌が飛び込んでくる。

 ライヴタイトルに“ツイスト大盛りフェア!”とあるように、ここからは全曲ツイスト時代のナンバーのみを演る、という音屋吉右衛門史上初の試みにして、一夜限りの特別な曲目構成となる。
 2人の力強いストロークが導いた「Party, Party, Party」は、ノリと華やかさ、男の色気が交ざったギターと歌のアンサンブルが40数年という時を飛び越えて、
2021年の今の音楽へと、聴く者それぞれの中の曲に紐づく思い出と共にアップデイトしていく。
回顧とか懐かしみで留まるのではなく、生きた音楽が踊りたい衝動を掻き立てる。コロナ禍で声は出せないし、席あり、といった規制のため実際に踊ったりできないけれど、
曲のエネルギーが、パーティは始まったんだぜ、と固まった心を解放してくれる。
 サウンドホールの上あたりのトップ板がピッキングでエグれているアコースティックギターが象徴するように、エモーショナルかつ強靱な世良のストロークが生むリズム。
声量たっぷりかつ、年月とその分の経験、そしてこれだけの時間自分らしく突っ張ってきた生き様が乗った歌声。
そしてフィーリングと精密さ、華やかさを併せ持つ野村のテクニカルでカラフルなギターサウンド。2人が織る音楽は、バンド・ツイストが持っていた熱量、迫力にひけを取らない。
むしろ、深みは勝っている。座ったまま演奏していても、ステージの気持ちの高ぶりは伝わってくる。
そして、声出し禁止でも、マスクをしていても、クラップや立ちこめる空気から、オーディエンスが抱く熱はステージに届いている。

「知らんぷり」と「Party, Party, Party」を差して、
 「何十年かぶりにこの2曲をやったね」
 と柔らかいトーンで世良が言うと、
 「何十年も一緒にやってきましたけど、初めてやりましたよ」
 人懐っこい笑みを浮かべて野村が返す。

 会話の節々に、2人の信頼を置く関係性と温かな人柄が感じられる。
 ソウルフルな歌に心揺さぶられた「男と女」、ミディアムテンポの「Cry」ではソフトなタッチで弾かれる世良のギターの音色とウェットな声色で囁き、
時に声を張り上げる後悔の情に溢れた歌が、静寂が支配した客席に吸い込まれていく。野村のソロの煌めきは、主人公が流す涙みたいだ。
 そして、スローナンバー「マギー」。2人のギターの音色、世良の歌とシャウトにはやるせないまでの愛おしさが滲んでいた。
 地下にある楽器店で初めて話した、といった初期の思い出話を挟み放たれた、デビュー曲「あんたのバラード」の波となって押し寄せる歌。そこに宿る情は奥ゆきがある。
 届く音楽に刺激され、聴く者の心で渦巻いていた熱と感情は、テンポをグッと上げた「宿無し」で一気に解放される。ブルージーな香りを纏ったロックに合わせてクラップが打たれる。
歌う世良に笑顔が覗く。ギターを弾く彼の体がリズムにノって大きく揺れる。曲の後半、野村が席から立ち上がりアコースティックギターを掻き鳴らす。世良と野村が視線を合わせる。
 エッジーな2本のアコギのストローク、世良の情熱的な歌の重なりが音圧となって押し寄せた「銃爪」でさらにエネルギーを投下、楽しみを加速させる。再び立ち上がって野村は演奏する。
 「立ち上がっちゃうよね」
 と言い合うステージの2人に、同意の拍手が贈られる。

 自然と爪弾かれた世良のアルペジオが「性‐サガ‐」のフレーズになる。スローで剥き出しの歌がシャウトに変化する。クリアな野村のギターソロが感情のつっかえを洗い流していく。
 アップテンポなロックンロール「Rolling16」では、歌とギターサウンドが軽やかに弾み、ダンスする。
グラマラスで中毒度の高いフレーズと、サビの“いつもPA, PA, PA,と”という振り切ったつき抜け感がゴキゲンな「PA, PA, PA,」。
膨大なエネルギーが注がれたアップミドルテンポの「SOPPO」と、立て続けに披露、アドレナリンの分泌を促していった。

 口笛の音色が響いた。ゆったりと、丁寧に弾かれるアコースティクギターが奏でたのは、「歩み(そして…明日)」だ。
太く、ソウルフルで、長年一緒に歩んできた親しい人に語りかけるような歌が乗る。
その歌声が紡ぐ、“歩みを止めるな”“涙をぬぐって 胸をはれ”“心を閉ざすな”“明日 強く生きる為に”……一言一言が体の奥底に染みこんできて、心を震わせていく。この震えは、とても心地いいものだった。

 そして天井からの柔らかな光を浴びて世良と野村が贈り届けた「LOVE SONG -Please listen to my song-」。曲を織っていくギターの音色と歌声は、今夜一番温かで優しいものに感じる。
この演奏と歌を聴くすべての人、これまでの軌跡のどこかで一緒の歩んだ人に向けた慈愛が詰まったラブソングだと、思った。

 ライヴは、パワーチューン「燃えろいい女」で本編のラストを迎える。イントロを弾きながら世良は思わず立ち上がる。野村は立ったままギターをプレイし続ける。
衝動と楽しみの塊のサウンドと歌は晴れやかに響く。平常のように声に出して歌えなくても、観客は自分の席の前に立ち、手拍子を打ち、それぞれの心の中で歌を重ねる。
曲のラスト、ステージ上の2人は向き合いギターを掻き鳴らす。キッズのように無邪気に、目を輝かせて音で会話し、呼吸を合わせる姿を見ているとワクワクが伝播する。
“楽しい!”“生きてる!”。その想いが湧き上がってきた。

 鳴り止まないクラップに応えたアンコール。音屋吉右衛門が放つアッパーな「とびきりとばしてRock’n Roll」は、エネルギーと音楽を奏で歌う喜びに溢れている。
そして、続いた最後の曲「燃えつきぬ」。
ミディアムスローの穏やかなアコースティックギターの音色に包まれて、伸びやかで雄大な世良の歌が響き渡る。“時を越え唄う 命懸けて”“死ぬまで燃えつづける”。
胸をギュッと締めつけるその歌は、ずっとステージで歌い続けるから、音楽には楽しみがあるからまた会おう、という世良と野村の宣言に感じた。

 オープニングからエンディングまで、この日のライヴには、どこを切り取っても楽しみと、音楽を演る喜び、熱があった。
それらは、コロナ禍という、大小こそあれ不自由を伴う世界で生きる我々に、“歩みを止めるな”“涙をぬぐって、胸をはれ”“心を閉ざすな”“情熱を燃やせ”と語りかけてきた。
暗く閉ざされた中、凍てついて固まり動かなくなった心を溶かしてくれた。
そして、コロナ前の日常をずっと遠く感じたり、別世界で生きていると思える日もあるけれど、それは本当にこの数年で。
もっと長い時間、喜び、楽しみ、慈しみ、時に怒り、哀しみ、凹んだりしながらも乗り越えようと歯を食いしばってきた日常があったことを、
今の世良公則と野村義男によって昇華されたツイストの楽曲たちがリアルに思い出させてくれた。

 この楽しさ、喜びこそが受けとった一番のメッセージだった。

 あのスペシャルな夜から、約1年が経つ。

 今でも色褪せることのない大切な時間と音楽、そこにあった楽しさと喜び、熱がそのままパーケージされ音源化。
ライヴアルバム『ツイストノウタ』として、世良公則のデビュー45周年の記念日、11月25日にリリースとなる。
『DVD付盤』のDVDは、曲間のトークも含め、2021年11月28日・なんばHatchのステージが収められたライヴ映像作品となっている。

 世良公則と野村義男、音屋吉右衛門が音楽に込めたメッセージを、是非感じてほしい。

解説文:大西智之