2003年12月17日、私は「Jupiter」でデビューしました。
出会いは大学1年生の時。ちょうど、デビュー曲を探していた時でした。大学の授業で聴いたホルストの組曲「惑星」の中の「木星(Jupiter)」を聴き、一瞬で心を奪われ、涙が止まらなくなりました。同時に、「この曲に歌詞をつけて歌いたい!」、「この曲なら自分の思いを伝える事が出来る!」・・・そう強く思いました。
私にとって「Jupiter」は、守護神のような存在です。「Jupiter」でデビューしてから、たくさんの人や、場所、そして様々な心に出会うことが出来ました。 この10年間、楽しい時も苦しいときも「Jupiter」を歌い続け、一緒に苦楽を共にしました。そして、私にいつも、喜びや使命を与えてくれました。今では、ひとつの曲ではなく、ひとりの人格を持っているような・・・そんな存在です。
“Dear Jupiter”・・・このアルバムのタイトルどおり、大切な、そして愛する人です。
私は当初、伝えたい2つの思いがありました。ひとつは、2001年9月11日に起こったアメリカ同時多発テロによって、世界中の人々が抱えていた言いようのない悲しみと不安。このような状況の中で、世界に発信できるようなメッセージを込めたかった。そしてもうひとつは、難病を抱えながらもたくさんの人に笑顔と希望を与えてくれたアシュリー・ヘギちゃんの存在です。当時は私自身も様々な不安を抱え、「本当の自分って何だろう」「いったいどれが本当の自分なの?」という悩みの中にいたので、「生まれ変わってもまた私に生まれたい」というアシュリーちゃんの言葉を聞いた時、すごく大きな愛に包まれながら「大丈夫だよ」と言われた気がしたんです。そして、彼女のお母さんの「我が子のために何が出来るの」という思いを受け、今、自分が感じているこの思いを歌詞にしたいと思いました。そして、もし私と同じような不安を抱えている人がいたら、「ありのままでいいんだよ」と伝えたかった。こうして、最初は自分で歌詞を書き始めました。何度も何度も書き直し、旅先でもホテルから歌詞を送り続けました。しかし、なかなか納得出来ない。歌詞は数十枚にもなりました。時間をかけて制作させてもらいましたが、最終的に作詞家の吉元由美さんに思いを託して書いて頂きました。由美さんは私の思いに深く共感して下さり、自分では書けなかった素晴らしい歌詞を書いて下さいました。
デビュー直後から、たくさんの方が「Jupiter」を聴いて下さいました。みなさんからの反響が本当に嬉しかったです。ですが、初めての経験ということもあり、実はあまり実感というものがありませんでした。「Jupiter」は絶対みんなに届くんだという揺るぎない思いを持ってはいたものの、それがどんな風に届いているのか、想像がつかなかったのです。しかし、デビュー翌年に新潟県中越地震が起き、新潟のみなさんから「Jupiter」に多くのリクエストが寄せられ、ラジオから何度も何度も流れているんだという話を聞いたときは、言葉にならないほどの思いが込み上げてきました。新潟の方に助けられ、歌を届けるということの本当の意味を知りました。その後もいろんな交流を重ねてきましたが、新潟はまさに「Jupiter」の“ふるさと”と呼べる場所。ここからたくさんの絆が生まれました。
私自身、「クラシックだからカバーした」とか、「クラシックとポップスの架け橋になろう」という気持ちは全くなかったのですが、「平原さんと言えばクラシック」と言われることが増えて、心の中で抵抗している時期もあったんですね。バラードのイメージも強かったので、アップテンポを歌うことも珍しいねと言われてきました。それこそ高校時代は「JOYFUL, JOYFUL」を歌って踊っていたので、「私はもっと動くのに!」と思ってた(笑)。でも、今では「みんなに聴いてほしい平原綾香」と「みんなが聴きたい平原綾香」、両方とも大好きなんです。どちらも自分、ありのままでいいんだって。
この10年を振り返ると、「Jupiter」との出会いはもちろんですが、2008年に発表した「ノクターン」は大きな転機となった曲です。
ドラマ「風のガーデン」の主題歌になり、私も「氷室茜」という役で出演することになったのですが、撮影がすべて終わった後も、役の気持ちが抜けなくて、これが役の気持ちなのか、自分の気持ちなのか、よく分からなくなってしまい、辛い思いを抱えたまま過ごす時期がありました。役者は役の悲しみで泣けるけど、私は役を演じているのではなく、実は自分を演じていたのかもしれません。
へんに真面目すぎるというか、向き合い過ぎて抜け出せなくなるという自分のダメな部分や弱さが見えたんですよね。でも、その辛さがあったおかげで、自分の「歌」が見えてきたんです。
「感謝して歌ってごらん」と側で必死に支えてくれた父と母の言葉、ミュージシャンやスタッフみんなの支え、そしてコンサートに来て下さったお客様のあたたかい拍手に助けられ、乗り越えることが出来ました。こうして振り返ってみると、私はいろんなことを歌で気付かされ、歌いながら成長させてもらっているんだなぁと思いました。
これからはアジアの国々にも行きたいし、ヨーロッパ、アメリカなど世界中を旅して歌いたい。でも、まずは自分のふるさとであるこの日本で、「Jupiter」に甘んじることなく「平原綾香の歌」をもっと届けることが大事だなと思っています。父・平原まことは「音楽家である前に人間であれ」と言っていましたが、たしかに、もっともっと心に寄り添うような歌を歌い、それをたくさんの方の元に届けるためには、まだまだ修行が必要。私は音楽と結婚したって公言してたけど(笑)、本当の意味で自立して、恋もして、平原綾香という人生をしっかり生きることが、これからの課題のひとつだと思っています。これまでの10年と、ここから始まる新たな「平原綾香」をつなぐこのシングル・コレクション。ぜひ、ヘッドフォンでじっくり聴いて下さい!
愛と感謝を込めて・・・!平原綾香