すべてが歌になっていった(作詞・作曲:森山良子/鈴木慶一 編曲:鈴木慶一)
森山良子と鈴木慶一の曲作りは、この歌からはじまった。
「デビュー45周年にふさわしい歌を作りましょう!」
そう提案したのは鈴木慶一だった。
さて、どんな歌にするか。★「気がついたら……歌ってた。喜びも悲しみも……歌手としてデビューして、悲しくっても、ステージで歌ってた。嬉しくて喜んでる日にも、ステージでは悲しい歌を歌ってた。そんなことが積み重なって行って……どんな時にも歌があった。歌を通して人生があった」★そんな話から、歌のテーマは決まった。
「すべてが歌になっていった」は、歌に目覚めた少女時代の話からはじまる。そして、激しく盲目的な恋に落ちた頃のエピソード。叶わぬ思いを知り、こわれた心をやさしく包み込んでくれた歌。恋よりも歌をと、歌い続けてきたこれまでの人生。
「どんな時にも歌があった。歌を通して人生があった」という森山良子の言葉が、この歌のすべてを雄弁に物語っている。
いとしのポリチカ(作詞・作曲:森山良子/鈴木慶一 編曲:伊藤ゴロー)
ムーンライダーズの35周年記念コンサートで聴いた徳武弘文の演奏による「ピーター・ガン」に触発されてメロディーが生まれ、開花していった作品だ。★「家に帰って「かっこいいなあ、あのフレーズ!」って「ピーター・ガン」のリフを弾いてたんです。ところが、完璧にリフを知っているのにも関わらず、勘違いしたままギターを弾いてるうち、自然にメロディーが浮かんできて……それに「浮かれられないリズムでも!」とか「遊べそうにないスケジュールでも」って歌詞もメロディーに導かれるように浮かんできて、作っていったんです。
「面白いね、これ!ビミョーに「ピーター・ガン」と違うメロディーだし、全然、違う展開になってる」
「やっぱり?」「でも、そこがおもしろいから、これを曲にしましょう」って。
慶一さんもメロディーのアイデアを大分出してくれて……
最初は「愛しのベイビー」なんて歌ってたんですが……
「ベイビーはちょっとなあ……職業にしたら?今、一番、興味がある職業は何?」って言われて。
即座に答えたのが「政治家!」。
でも、日本語だとしっくりこない。そこで「調べ魔」の慶一さんが探し出してきたのが、ポルトガル語の「ポリチカ」。そんな風に職業が明確になってくると、私も言いたいことがだんだん増えていって……
普段は政治のことには無関心で、のほほんと生きてきた。でも、ここ最近の政治のゴタゴタとか、震災があってからの情けない政治家の立ち居振る舞いや言動に怒り心頭に達したところがあって……書いてるうちに過激な歌詞になったので、少しデフォルメして」★かくしてラブ・ソングはトピカル・ソング、プロテスト・ソングへと変貌を遂げていった。さらに、ブギウギ・ナンバーはサンバ、ボサノバへと変貌を遂げていった。★「慶一さんが伊藤ゴローさんにアレンジを任せたことから面白い人たちが集まって、ラテン系になっていったんです。それにサックスをお願いしたスティーヴ・サックスさんがハーヴァード大学の出身で、四ヶ国語が堪能。
最初は慶一さんとめちゃくちゃなポルトガル語で歌ってたんですが、これはちゃんと訳して入れた方がいいんじゃないか。そんなことからスティーヴさんにニュース解説をお願いして、私もポルトガル語で合いの手を……」★軽快でのどかな雰囲気の漂う演奏、サウンド展開。森山良子の歌も伸びやかだ。そして、トピカルなテーマが織り込まれた皮肉たっぷり、シニカルな歌詞を、コミカルな表情を見せながら歌う。
6つの来し方行く末(作詞:鈴木慶一 作曲:岡田 徹 編曲:岡田 徹/鈴木慶一)
この歌が、鈴木慶一との出会い、本作のすべてのはじまり、きっかけとなった。★「初めて聴いた時、感動しました……一番ごとに私の思いと重なって……それに「これは歌いたいなあ」って思いました。自分が感動出来る歌って、そんなにない。そんなに出会うチャンスもない。自分で作ろうと思ってもなかなか作れるもんじゃないんです。
私自身、もともとシンガー志向なんで、良い歌があって、自分を触発してくれたり、感動できる歌だったら歌いたい、という意識の方が強い。「これ、歌いたい!」って思わせてくれた歌だったんです。
ほんとに自分が「絶対にこれ歌いたい!」って強く思う歌って、何年に一度、何十年に一度、あるかないか。売れるとか売れないとかそういう目線ではなく「私はこの曲、今、この曲を歌いたいんだ!」って、そんな自分の衝動の方が大事なんです」★アコースティック・ギターを主体にした演奏にピアノが加わり、マンドリンはじめシンプルな演奏が積み重ねられ、コーラスが加わり、演奏、サウンドは広がりと奥行を増していく。神秘的で幻想的なロマンの世界へと誘っていく。
最初は丹念に穏やかな歌いぶりをみせていた森山良子の歌声は、次第に力強さを増し、凛とした表情を見せていく。★「あえて、あえてこの詩の持っている人間らしさとか強さ……実はものすごく力強い歌だと思うんです。ライダーズが35年もやってきた中で、慶一さんがメンバーのひとりひとりに書いたラブ・レターだって聞いたんですけれど……並々ならぬ35年だったと思うし、私にとっても並々ならぬ45年だった。このぐらい強い歌の方が自分自身の表現としてはふさわしいかな、って……
男の持ってるロマン……いや、男じゃなくてもいいんですが、ある年齢に達した人がいろんな経験から持ち得た思いやり、ロマン。そういうものがこのひとつの曲の中に詰ってます」
Seven Lonely Days(作詞・作曲:E. Shuman/A. Shuman/M. Brown 編曲:鈴木慶一)
「最初の打ち合わせの時、慶一さんが「日本語の歌なんだけど、これどうでしょう?」って持ってきてくれたのが、東郷たまみさんの歌う「SevenLonely Days」だったんです。
「え!? この歌、私、中学の時、最初にコピーしたのよ!」て話したら、「え!? そうなんですか!」って話になって。そしたら「やろう、やろう!」って。すっごくびっくりしました!」★森山良子は中学時代にナッシュヴィル・ローファーズなるカントリー・バンドを結成する。その時、最初にコピーしたのがこの曲だった。
「Seven Lonely Days」は1953年、ジョージア・ギブスの歌でアメリカでヒットし、日本でもヒットした。他にワンダ・ジャクソンの歌、東郷たまみはじめ日本語によるカバー曲などでも親しまれた。★「私としては、日本語で歌うよりも英語の方に親しみがあって」ということから「オリジナル通り英語の歌で……」。
そして、コーラスのアイデアはパッツイ・クラインのバージョンから。
「歌い方も、いつもは裏声に入るところを、そのまま地声のまま「(森山)「良い子」のほうじゃなく「悪子」の方を出してみようかって……」
私の本性、本筋って、この歌に一杯詰ってるんじゃないかって思いました。歌声のこともあるし、カントリーってこともある。それにコーラス自体も好きだし……コーラス自体が好きなのでコーラスを始めると喜々としちゃうんです。だから、私の大好きな要素が一杯詰ってる……」
さよならの夏(作詞:万里村ゆき子 作曲:坂田晃一 編曲:伊藤ゴロー)
宮崎吾朗監督による映画『コクリコ坂』の主題歌として起用された手嶌葵によるカバー曲が話題を呼んでいるが、もともとはTVドラマ「さよならの夏」の主題歌として森山良子が歌った作品だ。★「私自身、とっても良い曲だと思ってて……コンサートでもリクエストが多くて、歌い続けてきた曲です。そんな曲を数年に一回、セルフ・カバーしたりすることがあるんですが……今回、レコード会社からのオファーもあったし、良い曲だし、今の自分の歌として歌い直してみてもいいかな、って……」★オリジナルは情景の描写が目立つ歌唱と演奏だったが、今回の新たなバージョンでは追憶、郷愁、感傷の趣が際立っている。エキゾチックな演奏、サウンド展開が港町の情景を思い浮かばせるあたりも一興だ。★「とても面白いレコーディングでした。すごく若い集団が、ちょっと昔のイタリアンチックな……ノスタルジックな感じもあるし、郷愁みたいなものを出してくれてます。」★それにも増して今の森山良子を物語る王道的な味わい深い歌が耳を惹く。★「歌に関しては、歌い上げないようにして、自分の良さを出す。「大人のさよなら」みたいな……キーが低いところから高いところへ行くんですが、そのあたりが難しくて……若い頃は、どうしても張り上げちゃうんですが、今回は抑えました。」★ちなみに、この曲のヴォーカル・プロデュースは森山良子自身によるもの。
愛の讃歌(作詞:E. Piaf 訳詞:岩谷時子 作曲:M. Monnot 編曲:島 健/権藤知彦)
オリジナルはエディット・ピアフ。恋人のマルセル・セルダンとのことを歌った作品として知られ、日本では岩谷時子による歌詞で越地吹雪が歌い、多くの歌手に取り上げられてきた。★「いろんなところでコンサートをやってますし、お客様の年齢層も幅広い。誰でも知ってる歌ってことを考えた時、「愛の讃歌」のはいつも頭にありました。
でも「そこまで大人じゃないなあ」って思ってたし、日本でのこの曲の歌われ方に疑問もあって……もしかして一生歌わない、なんて思ったこともあるんです……が、ずっと気になっていて……
エディット・ピアフの歌を意識しながら「今、この曲を歌う年頃にきてるんじゃないか……私も歳を経て、この歌の良さを私なりに解釈できるかもしれない……この曲を歌うとしたらどういう風に歌うんだろうと、まず思って……
「絶対に声高らかに歌うんじゃなく、ずぅーっと、そおーっと、ピアニッシモで歌い続けたらどうなるんだろう」……「愛してる、愛してる、愛してる」ってことで終わってるけれど、その中に苦しみ、刹那さ……そういうものをどういう風に表現すれば、私の「愛の讃歌」が出来るんだろう、って3年間ぐらい考え続けてきたんです、実は……
それで、一年間、コンサートでエレピ一本で歌ってたんです。でも、感情過多になってしまったり、変に言葉口調になってしまったり。あくまでも音楽、あくまでもメロディーとして歌っていくことをピアニッシモで歌いつつ……」★様々な紆余曲折を経て取り組んだ「愛の讃歌」は、島健のアレンジ、古川初穂の演奏によるエレクトリック・ピアノ、権藤知彦のユーフォニウム、プログラミングが加味され、森山良子にとってワン&オンリーの「愛の讃歌」となった。
A Little Girl A Little Boy A Little Moon (作詞:R. King 作曲:H. Warren 編曲:塩谷 哲)
ロバート・キングとハリー・ウォーレンによるこの曲がシート・ミュージックとして出版されたのは1927年。以来、これまでの多くの歌手によって取り上げられてきた。そして森山良子はこのアルバムのレコーディングのために集められた資料の中にあったダイアナ・パントンの歌を耳にした。★「いろんなCDが私のところに集まってきてたんです。誰から貰ったのかわからないものもあって、それをとりあえず全部聞いてどうするか振り分けていた時、「この曲、可愛いじゃない!」って思って……
言葉も可愛いし、シチュエーションも可愛い。歌ってるダイアナ・パントンもとてもチャーミングな歌唱で……カントリーの人も随分歌ってたり、だいぶ、昔の曲ではあるらしいですね。
こういう曲って、私、すごく好きなんです!」★塩谷哲のピアノをバックに歌われるこの作品の歌唱は、しみじみと味わい深い。ここでの歌唱も、今、森山良子の王道的なそれと語るにふさわしい。そして、このヴォーカル・プロデュースも森山良子によるもの。鈴木慶一は彼女にそれを委ねた。★「ダイアナ・パントンも抑制を利かせてるんですが、もっと「そぉーっと」歌いたい。それよりも、まず「ソング(歌)」、歌詞を正当な発音で歌うということが一番の課題、テーマなんじゃないかと思って……
「とにかく歌わない」、ということなんです。だからすごく緊張もした……これ、実は、塩谷さんとセーノで録ってますから、後で歌い直せない。3テイクぐらい録った中のひとつを、OKテイクにして……
「わぁ~、 ここのところは歌い直したい!」っていうところもありましたが、これはこの日の森山良子の「A Little Girl A Little Boy A Little Moon」だと思って……」
こころの花 (作詞:森山良子/鈴木慶一 作曲:森山良子 編曲:鈴木慶一)
「この曲のコード展開って、学生時代にジョーン・バエズを歌ってた頃、シンプルな中でとても美しいっていうあの世界観……教会音楽、賛美歌にも類似している感じですね。私にはずっと自分の中にいつまで経っても住んでいる不朽の曲、そのパーツがあって、必ずレコーディングの時にそういう曲が出来るんです。
一番、自分がスムーズに歌えるタイプのメロディーなんです。メロディーの抑揚はあまりなくて、三つぐらいのコードで……柔らかくて、小細工もなく、単純で……自分にあったメロディー。それに詩をつけたんです……
実は、孫が生まれて、人を守っていくこと、人が生きていくということ……この世が永遠であって欲しいと祈ること……色んなことを歌い込みました。
恋をした時もそうでしたが……「心の中に揺れてる白い花」っていうのは、自分の感情だし……まだ世の中を知らない小さな子供が、荒野に置かれて、小さな船に乗って船出をしていくそのいたいけのなさみたいなもの、せつなさみたいなもの……」★アイリッシュ・ハープ、コントラバス、チェロ、アンビエント的なエッセンスを加味した素朴で牧歌的で叙情的な味わいのある演奏、サウンド展開。それをバックに歌う森山良子の歌唱もまた、今の森山良子を物語る王道的なものだ。
おはなし(作詞:遠藤侑宏 作曲:田村 守 編曲:鈴木慶一)
森山良子がフォークを歌っていた学生時代の仲間で、ソウルフルなヴォーカリストであり、後にズー・ニー・ブーを結成した町田義人、東大生とは思えぬアイヴィー・ルックやスニーカーといういでたちが話題になった田村守らによるフォーク・トリオ、キャッスル&ゲイツの作品をカバーしたものだ。★「この頃、この4~5年、この曲が自分の中で響いていて……青春時代、学生時代、何も知らないで、ただ音楽をやって楽しい楽しいって過ごしていた日々……あの頃の自分の純粋な気持……
恋をしたとして、「ただあなたとわたしだけがいて、それ以外何もいらない」っていうぐらい、自分の純情のようなものが歌の中に包まれている。あの頃から可愛い歌だなって……忘れないものってあるんですよね……」★この歌を耳にして、かつてフォークを歌っていた頃の森山良子、レコード・デビューする前、アマチュアとして活動していた頃の彼女を思い浮かべる人も少なくないだろう。フォーキーな演奏の合間に顔をのぞかせるアイリッシュ・テイストのダンス・チューンを思わせる展開は、「あの頃」の森山良子の心のときめきを物語るようだ。
日常(作詞:松井五郎 作曲:森山良子 編曲:鈴木慶一)
東日本際震災の直後、日頃から親交のある作詞家の松井五郎からメールを受け取った。★「いきなり「良子さん、突然ごめんなさい。今の気持を詩に託しました。是非良子さんに見て貰いたい。誰かに伝えたい、良子さんに見て欲しい」って送って下さった。
読んだ時、嗚咽するぐらい心に響いて……私自身、大震災を目の当たりにして色んなことを感じ、色んなことが私の中で募っていたこともあって、「今しかない!」と……
その日から曲を作り始めたんです。今回のアルバムのコンセプトとは全然違ったものになるかもしれないけれど、これは、今、やることなんじゃないかって思って……」
「君の声のする方へ~」というリフレインが、耳を捉えて離さない。★「親族を失くした人たち、叫びあいながら散っていった人たち……そこに行きたい、そこに行って助けたかったのに、助けられなかった無念さ……そんなことが描かれているんじゃないかって……
「君の声がする方に~」って……声が聞こえたら助けたい。肉親や友達を失ったり、手を差し伸べても散っていった……私はこの詩を読んでほんとにそれを感じて、言葉として残したかった……」★ザ・バンドの「アイ・シャル・ビー・リリースド」をほうふつさせるそのアンビエント版ともいうべき演奏、サウンドをバックに歌われる。
真実(作詞:森山良子 作曲:かまやつひろし 編曲:Dressed Animals ストリングス・アレンジ:柵谷祐一 Transcriptionn:近藤研二)
従兄であるかまやつひろしが作曲、森山良子が作詞した共作品だ。
今回のアルバムが生まれるきっかけ、発端となり、アルバムのテーマのひとつにもなった「6つの来し方行く末」にちなんだ「人生の来し方行く末」ソングのひとつに挙げられる作品でもある。★「私自身は45年、かまやつはもっともっと50年以上の音楽活動をしていて。でも、一緒に作ったものはなくって……いつもふたりで飲んだくれて、遊んでるだけ……。そんなことからムッシュと一緒に曲を書いて、残せたらいいなって……
ムッシュに「シャンペン飲もうよ……」とおびき出して、ギターを渡して、最初「ブルースからやって!」って。「じゃ、次、じゃ違うパターン」って言いながら、色んなことをやってもらった……
最後に「ま、こうやって、メロディー・ラインはあまり変わらないんだけど、コードが変化していく。これも好きなパターンだよね」なんて言いながら作っていきました
そこに、私がふたりの人生、ムッシュと私の人生についての歌詞を、曲のイメージから。最初、どんな詩にしようかなって思ってたら、慶一さんから「良子さんとムッシュのことを書けばいいんじゃない?」ってサジェッションもあったので」★ムッシュへことかまやつひろしへの敬愛と信頼、家族だけでなく親族同士の絆の強さなどがうかがえる味わい深い歌詞は、鈴木慶一が語る通り、人生経験豊かなものにしか書けないものだ。
さらに、かまやつひろしへの敬意は、演奏、サウンド展開にも表れている。プロコル・ハルム、それもマシュー・フィーシャーをほうふつさせるオルガンがフィーチャーされるなど、ブリテイッシュ・ロック風味が漂うものになっている。
花柄のライフタイム (作詞・作曲・編曲:鈴木慶一)
鈴木慶一が今回、森山良子のために書き下ろしたオリジナル作品のひとつだ。★「「6つの来し方行く末」では私が一月生まれなんで、もう一番、一月生まれの歌詞を書いてくれたんです。ところがそれを入れるとなんか締まりが悪くなっちゃう……書いてくれたことはとても有難いんだけど、やっぱりライダーズのままの「6つの来し方行く末」が良いなあ、って思って……
「慶一さん、ごめんなさい」ってそれを没にして、レコーディングしたんです。その時に描かれてた私像を「この曲に入れたでしょ?」って言ったら、「ずばり当たり!」慶一さんの持ってる森山良子像を、この中に満遍なく散りばめてくれたんだな、って。
この歌は可愛くしようと思えばいくらでも少女趣味的な感じに仕上がりますし、可愛いイメージになるんですが、あえて私が最後に「う~んと低い声もあり!」というところまでキーを下げて……慶一さんがそれを拾った」★軽快なポップ・チューンだ。AKB48の話も出たようにアイドル歌手の歌謡ポップス的な趣がある。鈴木慶一がかつてムーンライダーズの一員としてアグネス・チャンのバックを手がけていたことがあることからすれば、この作風も決して意外なものではない。
もっとも、森山良子の低い地声をフィーチャーすることによって、この歌も「来し方行く末」にちなんだ作品としての趣が濃厚なものになった。
Verse~ほほえみに包まれて~(Album ver.) (作詞:作曲:森山良子 編曲:鈴木慶一/森山良子)
作詞、作曲、森山良子。今回のアルバムのために書き下ろしたオリジナル作品のひとつである。★「「Verse」って、スタンダード・ナンバーについてるでしょ? たとえば「霧のサンフランシスコ」のイントロの部分とか……そういう感じでほんとに短いヴァースみたいなものにこだわって作曲しました。
「ほほえみに包まれて」って、私自身、歌う時、そうありたいし、人にも……いろんなことを潜りぬけてきて、ほほえみながら生きていければ最高だなと思うような……普遍のテーマですよね。それに、震災があったので「笑ってばかりもいられない」って気持もあって、「苦しみや苦悩に立ち向かう勇気」って……」★森山良子らしい、森山良子ならではのメロディーを持った作品だ。
森山良子のギターの弾き語りをフィーチャーした作品だが、鈴木慶一がアンビエントな演奏を加味し、ひと味異なる趣に……。
Ale Ale Ale(作詞:村上ゆき/森山良子 作曲:村上ゆき 編曲:島 健)
〈セキスイ・ハウス〉のあの歌声で知られる村上ゆきとの共作品。★「村上さんと食事する機会がありまして「この頃、映画や本の題名や、人の名前が思い出せないの。「ほら、あの時のあの人、ほらって……」という話で2時間ぐらいしゃべってたら、「良子さんのためにこんな曲ができました」って……
すごく可笑しくて、大笑いして……自分の日常にあることなんで、おもしろいかもしれないなって、一回ステージに上げてみたんですが、もう少し面白くしたくなって……村上ゆきさんと何度も打ち合わせして、レコーディングしました」★私自身、ステージでしっかり歌を歌ってコンサートを充実させる。プラスアルファとしてエンターテインメントの部分を楽しくやっていきたい、というのがあって。こういう曲ってすごくぴったりの曲だと思ったんです」
ステージでの振り付きの歌いぶりが目に浮かぶような、ユーモラスでコミカル、ダンサブルな作品だ。
森山良子のコンサート、ステージをご覧になった方ならご存知の通り、歌う彼女は女神そのものだ。もっとも、MCではそんな彼女も豹変。ぐっとくだけた話ぶりになり、オチャメぶりも発揮する。
さらにはこの曲そのままに「Ale Ale」を時に連発。そんなオチャメぶりも森山良子ならではのもの、彼女を語るに欠かせないキャラクターの一面でもある。
刺繍を胸に(作詞・作曲・ 編曲:鈴木慶一)
鈴木慶一が森山良子のためにレコーディングの最後に書き下ろしたオリジナル作品だ。★「これ、私、びっくりしたんです。この曲が出来てきたこと自体……全部の曲のレコーディングが終わってたんです。それで、ジャケットの撮影、打ち合わせをしている時、私自身、手縫いのものとか手仕事が好きで、衣装さんと一緒に作ったものを、私のステージの枠組み、美術にもしている、なんて話をしてた……
今回のアルバムのカバーは、写真を撮ってから、それをもとに刺繍で、全部をクロスステッチで仕上てあるんですが……そんな話が決まってから、この曲が出来てきたんです。
「刺繍」て言葉が入っているのに「慶一さん、これで、アルバム、完結しましたね。さすがの仕上げ能力、プロデューサーとしての能力、発揮しましたね」ってメールしたら「でしょ?」って。
「止めの一発、後出し有利!」ってメールが届いたんです。
「これができて、完結したかな」、って。
それと、私はヨーデルが出来るって打ち合わせの時にさんざん歌っていたら、「これはヨーデルを使ってください!」って指示つきで曲が送られてきました。★「若さとはなんだったんだろう」……いろんな意味で、全部をここで解決させてある。
最後の「ほつれ出す」という言葉で、良い意味での投げかけをして終わってる。★慶一さんは、なんかものすごく大雑把でホワーっとしてるみたいなんだけど、実は繊細で、色々なことを考えているんだってことが、最後にもう一回わかりました。それにこの作品が出来たことで、このアルバム自体、自分にとって更にグレードアップしたって思いました」
『すべてが歌になっていった』は、今回のテーマのひとつである「来し方行く末」、それは過去、その回顧だけでなく、今、これから、明日への希望だということが見える作品で締め括られる。