10月14日、世良公則がデビュー40周年記念スペシャルライヴ『「ReBORN」~タダイキヌクベシ~大阪野音』を大阪城野外音楽堂で行なった。このスペシャルな日の場所に大阪が選ばれたのは、世良公則&ツイストの結成の地だからである。

 野外の会場。雨の予報にも関わらず、後ろの芝生エリアの立ち見席まで観客で埋め尽くされている。ステージの奥の壁には世良が10月11日に発表したばかりのアルバム『Howling Wolves』のジャケットと同じ“吠える狼たちの姿”が描かれたバックドロップが高々と吊されていた。

 定刻の17時、まずGUILD9のメンバーが姿を現す。そして一呼吸の間を空け登場した世良公則がバンドを振り返る。アマチュア時代からの盟友であり、共に40周年を迎えた神本宗幸がリリカルなピアノの音色を響かせる。世良が白いスタンドごとマイクを握り、野太い声を轟かせた。オープニングナンバーは、デビュー曲でもある「あんたのバラード」だ。ステージの発する熱が瞬く間に伝播していく。小雨が落ちる空を見上げた世良言う。「負けへんぞ!」。その雄叫びが天に届いたかのように、落ちてくる雨は量を減らし、そして止んでいく。

 

「Goodtime Showtime」では、ギターを持った世良と野村義男(G)が背中合わせに立ち、掻き鳴らす。ドロッとしてアーシーで力強い世良のリフと、エッジーで華のある野村のギター。揺るぎない個性を持った音が共鳴し、極上のフレーズを吐き出す。櫻井哲夫(B)と横瀬卓哉(Ds)が心地いいノリを生む。観客は体を横に揺らしている。自由な空間ができあがっている。

「このライヴを終える頃、みなさんひとりずつが一匹の獣となってそれぞれの人生を歩んで行かれますよう」。

 そんなMCにたくさんの歓声が上がる中、狼の気高い遠吠えが響き、それが幾重にも重なる。ニューアルバムからの楽曲「Howling Wolves」である。ギタリスト松本タカヒロが加わって厚みが増したサウンドと歌。その一つひとつは剥き出しで、各々が歩んで来た人生を感じさせる音色だ。そしてそれは、ライヴ中盤から参加してくるゲストアーティストたちの演奏、歌声も同じである。

 

「40周年おめでとうございます」。

 ステージに呼び込まれた時にそれぞれが世良に贈った言葉はとてもシンプルで、同時に心のこもったものだった。さらに演奏を始めると全身全霊で己を音に宿して重ねていくのである。

 ゲスト・ミュージシャンのトップは過去に何度かセッションしてきたバイオリニスト・NAOTOだった。新作でも参加した「尖った月の下で」をNAOTOは幻想的に、時に大胆にプレイで彩る。そしてバンドが一度去ったステージで、ハイスツールに座った世良のエレキギターと歌、NAOTOのバイオリンで奏でた「co co ro」は日だまりで微笑み合っているように温かかった。

「ちょうどいい感じで暗くなってきたね」。アコースティックギターに持ち替えた世良がつぶやく。「もう少しお届けしよう」と呼び込んだのは、これまでも音を重ねてきた押尾コータロー。世良が「彼のアコースティックギターから学ぶことが多い」と話すプレイヤーだ。押尾とNAOTOと世良、3人による「アイノウタ」はまさにインプロビゼーション。スタッカートを利かせ感情を込めた世良の歌と爪弾くアコギを中心に、押尾はアコギの弦を叩き奏で、リズムとメロディを生む。そして弓弾きでバイオリンの豊かな音色を聴かせたかと思えば弦を弾くNAOTO。曲のクライマックスの差し掛かりではNAOTOが床に寝転び、バイオリンを激しく鳴らす。音を介した会話は曲を変化させ、彼らのスリリングな演奏が会場を飲み込んでいった。

 NAOTOが去り、押尾が小学校の頃にテレビでツイストを見た時のエピソードを披露する。「マイクスタンドがないから学校の箒を持ってやってました」。そして世良が「大阪での大学時代にキャンパス前の坂道を登りながら友達と夢を語り合った」という曲に込めたエピソードを紹介し、2人で奏でた「TWO HEARTS」。互いの体内で “あの頃”から息づく、未来への憧れと夢が音と歌になって響いた。

 再びGUILD9を呼び、さらにつるの剛士をステージに招き入れる。お祝いの言葉の後、「何十年経っても追いかけていくぜー!」とつるのが宣言。それを合図に神本がエレクトリックピアノをしっとりと弾き始める。曲は「性」だ。“Wow oh……”、まずは世良が声を響かせ、つるのがたっぷりの声量で応える。2人の歌は止めどなく心の底から溢れる情熱のぶつかり合いだ。そして「俺とつるのくんのテーマソング」という紹介に導かれたのは、もちろん「いつものうた 世良公則feat.つるの剛士」である。心地よいルーズさと熱を帯びたサウンドの上でつるのと世良が年齢の壁をとっぱらい、歌で遊んでいる。その姿はお互いが受け継いできたロックンロールを育み鳴らしているものだった。

 

 「ガンガン行くぜ! スーパーロックンローラー」と紹介された次のゲストはJUN SKY WALKER(S)の宮田和弥。世良の60歳記念イヤーに組まれたライヴに出演し、新作にも参加している宮田との競演で届いたのはJUN SKY WALKER(S)の「さらば愛しき危険たちよ」。人なつっこさと同時にどこかヤンチャな空気をまとう尖った宮田と、余分な力と息を抜いた生き様が滲む懐の深い世良。2人の歌声が重なる。イカシタ大人の歌がギュッと胸を締めつける。雰囲気タップリのピアノ旋律で始まった「SOPPO」ではスウィングする神本のピアノと宮田が吹くハープがゴキゲンなノリを作り、世良の熱情的な歌が観客にも広がっていった。

 ゲストはまだまだ続く。宮田を送り出したステージに現れたのは斉藤和義だ。
「(奥田)民生くんと3人で写真撮ったの覚えてる?」と世良が尋ねれば、「ええ。でも世良さんは陶芸にハマってて音楽の話があまりなかった(笑)」と斉藤。「よしこれから音楽の話をいっぱいしよう」なんて話をしつつ、世良がまったりしそうになる流れを引き締めて言葉を継ぐ「You are ROCK’N’ROLL」。これに「Yeah!」と返す斉藤。言葉に反して彼がまとう木訥とした空気はそのままだが、それも1音ブチ鳴らすまでだった。以前、音楽番組でカバーした世良公則&ツイストの「宿無し」を斉藤がゴールドトップのレスポールを手に歌い、莫大なエネルギーを発する。これを受けて世良が歌い、火を注ぐ。ロックスピリットを揺さぶられた野村がステージギリギリに進み出て、ギターソロを噛ませば斉藤が負けじとソリッドなソロを響かせ、2人によるギターバトルの応酬に雪崩込んだ。ヒートアップしていく2人。天井知らずに登っていく斉藤&野村にコッソリ歩み寄った世良が、野村のギターのボリューム・セレクターノブを勝手に回して音を消す、という茶目っ気たっぷりの行動に出る。ふっとなごんだ会場に鳴るのは、世良がカバーアルバム『BACKBONE』に収録した、斉藤の楽曲「ずっと好きだった」だった。無邪気にギターをストロークし歌う2人はロックキッズそのもので、“再会したキミへの伝えられなかった恋心”と共に、ロックに出会い魅せられたティーンの頃の斉藤と世良の姿を運んできた。

「無茶苦茶ロックでいくぜ!」。世良が最後を飾るゲストアーティスト、吉川晃司を迎え入れる。吉川と世良、同じ広島をルーツに持つ2人はガッチリ握手を交わす。そしてすぐさまヴォイスコラージュが鳴り渡り、吉川晃司の「ラ・ヴィアンローズ」が始まる。意外にもミュージシャンとしては初となるレアな競演だ。黒で統一したマイク&マイクスタンドの前に立ち、切れ味鋭い歌を発する吉川。その横に立つ世良は白で統一したマイク&マイクスタンドに向かう。エッジーな吉川の歌とブルージーな世良の歌が共鳴する。2人は対称的であるように見えて、魂の熱の温度は同様に高いことがその声から伝わってくる。吉川がシャープに体を踊らせステップを踏む、世良がマイクスタンドを上に投げキャッチする。観客は拳を上げて叫んでいる。
「もう一発ブチかましましょうか!」。世良の一言で続いた吉川との「銃爪」では2人の大人の色香まとった歌声が轟く。世良と吉川の息の合ったハーモニーがハートを震わせた。

 GUILD9×世良公則に松本という編成に戻ったステージで世良が言う。
「今日はどうもありがとう! たくさんのゲストのみなさん、雨の中負けずにやってきてくれたみなさん、そして気まぐれな俺のライヴに心底付き合ってくれたバンドとスタッフのみなさん、さぁ、もういっちょやるぜ!」。
 本編ラストを飾ったのは「PASSION」、ストリートに渦巻くエネルギーを燃やす歌と演奏だ。今夜、大阪城野外音楽堂に常に渦巻いていた情熱を昇華する音楽だった。
 アンコール。デヴィッド・ボウイ、プリンス、グレッグ・オールマン、キース・エマーソン、トム・ペティ、チェスター・ベニントン、そしてチャック・ベリー。ロックに導いてくれた先達への敬意を込めて世良がその名を呼ぶ。そして今夜集結した12名のアーティスト全員がステージに揃い演奏されたのは、ニューアルバムからの「Rock’n Roll Is Gone」だった。“粋なRock’n Rollはあんたと一緒に逝っちまった”と嘆きながら、“Rock’n Roll Ain’t Never Going Away=決してロックロールは終わってない、止まってない”と歌で音で、ステージに立つロックアーティストが叫ぶ。その一人ひとりが、ロックと出会ってから己の信じた道を、情熱を持って進んできた人たちだ。不器用なまでの信念を持ち、揺るぎない個性を獲得して、ここまで情熱を持ってサバイヴしてきた一匹狼たちだ。
 そのWolfが心を重ね共鳴して笑顔で歌う。
 “We Love Rock’n Roll!”──。
 ここにオーディエンスも歌を重ねる。

誇りをもって仕事をしてきた人たち、休まずに家事をしてきた人たち、真摯に勉強してきた人たち、そして純粋に音楽をロックを愛して生き抜いてきた人たちの歌が野外の大阪城音楽堂に響き、天へと昇っていく。その狼たち、“Wolves”の叫びは先達への敬意と、ロックンロールを進化させながら先へと転がしていく原動力である“愛”に満ちていた。
 今夜最後となった「燃えろいい女」。曲を締めたはずが、世良が“燃えろ”と歌い始めたことで、7回、8回と続いていく。吉川がフェイントを挟んで“燃えろ”と続けたり、ついには客席の女性まで巻き込んで終わりそうで終わらない楽曲を、会場にいる全員が楽しんでいる。
 きっと、それぞれのアーティストのステージでは見られない一面でもあるだろう。そんなことを思いながら、いつまでもロックキッズのハートを持つ“Wolves”たちの共鳴を見ていた。

 

 

 それはとてもハッピーな未来に続く光景だった。

音楽ライター 大西智之