浜端ヨウヘイ 浜端ヨウヘイ

【Special Interview】たとえ会うことができなくとも、あなたが幸せでいてくれたら。 制作から5年。時代の変化と共にメッセージも大きく変化を遂げた「ただそれだけのうた」

2016年、ライブ会場限定CDとしてリリースした「ROUGH SKETCH I」収録の1曲、『ただそれだけのうた』。ライブの定番でファンからの人気も高いこの楽曲を、なぜ“今”このタイミングで改めてレコーディングしようと思ったのか。レコーディングに至った経緯や今だからこそ伝えたいこの曲に込めた思いを聞いてみた。

 

 

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自身の変化と、時勢の移り変わりにより意味合いも聞こえ方も変わっていった『ただそれだけのうた』

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早速ですが、まずはこの曲のリリースについて。
2016年5月16日リリースのライブ会場限定CD『ROUGH SKETCH 』にこの曲の弾き語りの音源が入っていますが、5年経った今、なぜ今回の配信シングルに改めて『ただそれだけのうた』を収録することになったのですか?

 

浜端
この曲はこの5年の間にもライブで必ずと言ってもいいほど歌ってきた曲で、ずっと、いつかはちゃんとアレンジしてレコーディングしたいと思っていたんです。そもそも『ROUGH SKETCH』シリーズというのは僕のセルフプロデュースのプロジェクトで、デモトラックスを集めた作品なんですよね。なので、この曲もその時点で将来的にアレンジすることを想定して「今回はこのぐらいの弾き語りにしておこうか」っていうテイクにとどめておいたんです。今回の配信シングル『祝辞』にカップリング曲を入れるとなった時に、この曲しかないだろうと思いました。

 

今回のアレンジは、当時「こうしてみたいな」って思ったイメージの通りになりましたか?

 

浜端
イメージ通りになりましたし、あの時イメージしていたものよりもっと研ぎ澄まされたものが作れたなと思っています。あの時そのままきちっとレコーディングしていたらきっとここまでできなかったと思いますし、今回、浦(清英)さん[Key]にプレイはもちろん、アレンジの相談に乗っていただくことができたのも、この5年間の活動の中での経験とご縁があってのことですしね。
コロナ禍になって、僕も予定していたライブがかなりの数できなくなってしまったり、会いたいけど会えなくて、会えないままで亡くなってしまった人とかなくなってしまった場所とかもたくさんあって。そういう経験をして、この歌について自分の中でどんどん意味が増えていってるんですよね。当時は本当に「僕の知り合いだけでいいから、幸せに何も問題なく暮らしてくれたらいいのに」っていうのを大真面目に考えていたんです。皆がそれぞれ「自分たちの手の届くところのことだけを」って考えたら、誰も不幸にならないし、戦争も起こらずものすごく幸せなことなんじゃないのかなっていう、本当にそれだけの小さな小さな距離感の歌だった。それがどんどん「今は会えないけれども、疎遠になってしまってるけど、ふと思い出した時に幸せで元気にいてくれたらな」ってことに繋がってきて、曲を書いて、リリースして、ライブで歌うようになってから5年経っていますけど、今もずっと聴いてもらいたいという曲になったんです。

 

その心境に至ったきっかけって何だったんですか?

 

浜端
そうですね……。まぁもう本当にこのコロナ禍の中で言えば、僕がデビュー前からずっとお世話になっていた各地のライブハウスが次々と閉店してしまってすごく寂しい思いをしたり。もちろん、僕がライブをしに行っていたらつぶれなかったのかって言ったらもちろんそんなことはないんですけど、お店が続いていれば少なくともまだ何度も会えただろうな、もっと違う話ができただろうな、「僕、メジャーデビューしたんだよ」っていう報告もできただろうなっていう人もたくさんいたし。
僕の個人的なことでいえば、僕はこういう風に思ってるんだぞっていう気持ちや思いが、リリースすることでそういう人たちにちゃんと届けられるといいなっていう、そんな気持ちでいます。

 

『ROUGH SKETCH Ⅰ』はライブを観に来た人、つまり(もちろん別の共演者を観に来る人もいますが)多くはもともと浜端くんを知っていた人が手にしてきたわけですけども、今回初めて配信やサブスクで聴けることになって、浜端くんの「は」の字も知らない人が聴く機会が増えましたよね。音楽の届け方も変わっていってこの曲が初めて世界中で聴かれるわけですが、リリースしてみてどうですか?

 

浜端
まさにそこで、こういう思いが僕にはあるんですよっていう気持ちを、ライブに行かなければ届けられなかったのが、より多くの人に届けられるようになって。この曲は、「自分の手の届く範囲だけでいいから」っていうすごく小さな世界を歌っています。
僕はデカい声で歌っていますけど、デカいとはいえただの一人の人間ですし、この小さい歌をずっと大切に歌いたいなぁと思っています。これがちゃんと流通に乗っているっていうこと、この曲を好きだと言ってくださる方にもまだ出会えていない方にも届けられるということが本当に嬉しいです。

 

楽曲が成長していく形はアーティストによって違うと思いますが、5年を経て、ある意味浜端くん自身がこの曲の本当の意味に気が付いた、そういう感じですか?

 

浜端
本当にはじめは「自分が関わったごく身近な人だけでいいから」と思ってましたが、この5年の間の自分自身の成長や変化とか、コロナ禍なども経て、距離や時間的に離れている人のことにも思い及ぶようになりました。5年前に作った自分の曲に、実は僕自身が救われたというところもありますね。5年前に作った自分の曲に、実は僕自身が救われたというところもあるんです。5年前に書いたものをただ、今レコーディングしました、というだけではなくて、やっぱりこの間、たくさんのライブで歌い続けてきたということもありますし、いろいろな物事が変化して……世の中の状況もそうだし、僕の周りにいてくれる人も変わりましたし、僕自身の考え方とか、歌に対する思いとか。歌詞以外の何もかもが「進化した」って言った方がこの曲に関してはしっくりきますけど、5年分の厚みが増したように思います。幹が年を重ねて年輪が増えていくように、5年分、曲が成長して太くなっていって、この曲に込めた思いが揺るがないものになっていったっていうことを、特にこのコロナ禍ではもろに実感しました。本当に今のコロナ禍だから歌えた歌ですね。

 

ここまでのお話をふまえて改めてお聞きします。この曲は浜端くんにとってどんな作品でしょうか?

 

浜端
ひとことで言うと、この曲は僕なんです。僕の書いたストーリーがとか、僕の思いがとかじゃなくて、もう僕なんです。1人の人間がいて、ただ自分の周りの人のことを祈っているっていう、一人の人みたいな歌だと思います。

 

「祈り」の歌?もしくは「願い」の歌?

 

浜端
「祈り」と言っていいと思います。「願い」よりも、ただ漠然と平和を祈るという方がしっくりきます。

 

メジャーデビュー曲『カーテンコール』と向き合った時と比べて、この曲の立ち位置はどんな感じになるんでしょうか?

 

浜端
全然違いますね。『カーテンコール』はもっと大きい曲じゃないですか。『カーテンコール』では時代とか、そこに生きるたくさんの人たちの出来事や人生といったものすごく広い世界を歌っているのに対して、この曲で描いているのはその中のほんのひとつですね。

 

「この曲は僕」ということは、これが浜端ヨウヘイたる信条なんでしょうか。

 

浜端
今までの僕の、例えば自分の思いを吐露するような曲の書き方とは作り方も違ったし。僕の意見というより、そういうことを考えている人が一人そこに立っているっていう感じです。これは僕だけじゃなく、聴いてくださる皆さんにとっても、その時その時の近くにいる人、大事な“あの人”って変わってくるものだと思うので、聴く時々で感じるスケール感も違うはずだし、だから長く聴いてもらえたらいいなと思います。そして長く聴いてもらう中で常に新しい歌でいてほしいなとすごく思います。

 

最後になりますが、今回この曲を含め3曲を『祝辞』というデジタルシングルとしてまとめたわけですが、総括してリリースに際しての気持ちを聞かせてください。

 

浜端
僕は今回のデジタルシングル『祝辞』は、もちろん前作の『世界にひとつの僕のカレー』の時も思ったことなんですけど、今じゃないとできない取り合わせの3曲になったなと思っているんです。『祝辞』はもう「この時期に結婚式の曲ってどうなん?」ていう話もありながら、でもだからこそ贈る歌が必要なんだっていうところから制作が進んでいきましたし、今だからこそ贈る歌っていう意味で作りました。『ラジオと君と僕のうた』も、番組の中で1曲作るっていう企画はたくさんありますけど、ここまでリスナーさんと最後の最後まで仮想スタジオに入って一緒に詰めて作った曲はないんじゃないかなと思いますし、ステイホームの期間があったりしたこの時期だからできた企画だと思います。そして僕の小さな小さな範囲の思いを詰め込んだ、この『ただそれだけのうた』と。今このタイミングだからこその3曲っていう、すごく充実したパッケージになったと思います。1人でも多くの方に聴いていただきたいです。