「ウォォォーン」──。
 誇り高きウルフの遠吠えが響く。
 ダグ・アルドリッチ(元ホワイトスネイク/現ザ・デッド・デイジーズ)によるギターのエッジーなハウリング、腹の底から吐き出される世良公則の低い歌声。そして、横瀬卓哉のドラム、櫻井哲夫のベース、野村義男のギター、神本宗幸のオルガンがそれぞれ遠吠えと呼ぶべき音を発し、呼応し、轟く。  これがデビュー40周年直前の10月11日リリースされるオリジナルアルバム『Howling Wolves』のオープニングだ。  このタイトルチューンである1曲目に関して言うと、歌詞には“like a wolf”とあり自身と狼を重ねているが、複数形である“Wolves”というワードは出てこない。
 その理由は、このアルバムで鳴る音を肌で感じれば自ずと見えてくる。
 ソロアーティストになり、アコースティックギター1本でアメリカへ渡って以来、世界・国内を問わずミュージシャンとセッションしてきた世良は言う。

「惹かれてきたミュージシャンの音には頑固さがあるんだよね」

 クラッシック、ブルース、ヨーロッパの民族音楽、ゴスペルにバロック、レゲエ……様々な音楽要素を混ぜて生まれ、その後、どんな要素を取り込んでもロックは揺るぎなくロックであり続けたように。参加したミュージシャンたちの音と世良の声は、それぞれがロックにヤラれて以来、培い続けている“己の核”が剥き出しで、迎合しないものである。そんな頑固な個である一匹狼が、世良というひとりが発する“Howling”に共鳴したところから始まる、それがこのアルバムの成り立ちだ。

「今年の正月に地元に帰って、その1週間ほどで12、13曲ができたんですよ。今回録ったのは10曲なんだけど、曲ができた時点でアルバムの全貌が見えたんです」

 その10曲が描く作品でウルフたちは、ケモノに戻れと促し、共鳴した者同士で“育む”ことを行い、個を信じろと言う。ここまで必死に生きてきた分だけ胸を張ればいい、精一杯生きることで伝えられることがあると背中を押す。
 そしてさらに感じるのは、頑固な孤高の狼であることと、変化や他者を排除することは違う、ということである。
 「ケモノの夜を越えて」に、“手のひらの中広がる 現実は本物か”とあるが世良はスマートフォンを使い、「もうすぐリリースされるiPhone Xに夢中になっている」という。好奇心というアンテナを張り、“今”というこの瞬間も一瞬で過去になるというスピードを感じながら、時代の空気を吸い込んでいる。制作を進めていた仕事部屋の窓から見える梅の木の蕾がほころんださまや、訪れる鳥たちの“ただ懸命に真っ直ぐ命を紡いでいく姿”に心動かされ、この刺激も作品に織り込んでいる。
 そんな彼が感じる“時代の空気”を表現するのに重要だったのが、10代の頃からの盟友である神本宗幸と作り上げたマニュピレーションによる音像だった。それは地を這うような低音感であったりするのだが、「尖んがった月の下で」はUFOが空を横切ったような摩訶不思議な音も入っている。
 ミディアムテンポでブルージーな香りがするこの「尖んがった月の下で」は、ブルース心とレゲエの跳ね感が体に入っているベテランミュージシャン陣にはお手のものだ。でも世良はこの時代でリアルに鳴る音楽として安定感を壊したかった。

「この時代を表すのに、平均台の上のような不安定感……ソリッドな怖さみたいなものが同居している空気が必要だったんだよね。『尖んがった月の下で』は、岩場にウルフたちが集まってきて、じゃれ合ったり、踊ったり、生命を育んだりしている。そこにある森とか岩、空に浮かぶ明るく細い月という大自然は温かく迎え入れている。そこを一瞬UFOがよぎるんだよ、ってみんなに言ったの(笑)。そういう音を前にして百戦錬磨のミュージシャンがどんな反応をするのか楽しみだった」

 そう言う。さらにこの曲の安定を切り裂くのに多大なる影響を与えているのがNAOTOのバイオリンである。

「月がまん丸い満月になった時に狼は人になるのか、逆にこのアルバムで表現する“Wolves”が僕たちだとしたら、満月で人が狼になるのかもしれない。いいほうにも悪いほうにもドラマチックに人は変わっていく。そんな均衡を破る空気を表現するためにはNAOTOくんのバイオリンしかないと。アバンギャルドでクレイジーに、ってオーダーしたんです」

 結果、彼のバイオリンは音楽的なマナーを破壊し、楽曲に尖かりを与え、かつ美しいものとなった。
 『Howling Wolves』は、2017年の日常で息を吸い吐く中で世良公則が感じたものを形にした作品である。先輩が培ってきたロックを愛し、敬意を払いつつ前へと転がし、同じ世代を鼓舞し、下の世代に生き様を見せる。己の目線で今を切り取った音楽は、時に幻想や夢物語を含みながらも、すべての曲に日常のリアリズムがあり、今を懸命に生きる者、人に寄りかかるのではなくまず自身の体内でエネルギーを全力で燃やし一人で立つウルフたちが共鳴するアルバムとなった。
 この作品をリリース後の10月14日、世良はデビュー40周年記念スペシャル野外ライブを大阪野音で開催する。ツイスト誕生の地、大阪でのこの1夜には、吉川晃司、斉藤和義、宮田和弥(JUN SKY WALKER(S))、押尾コータロー、NAOTO、つるの剛士、野村義男を始め、総勢12名のミュージシャンが参加するわけだ。それぞれに“核”を持ち、愛すべき頑固さを貫く孤高の狼たちの共鳴がどんな音楽を奏でるのか、楽しみだ。