ディスコグラフィ

THIS IS WIDESCREEN ディス・イズ・ワイドスクリーン ~これがXXの世界さ!~

デジタルキッズに贈る音楽美楽
UKエレクトロポップシーン注目の「WONKY POP(ウォンキーポップ)」から誕生したユニット!!

「じわじわ勢いを増してくる・・・これはコマーシャルなダンスポップです」 (ミュージック・ウィーク誌)

- LIner notes -
「どんなタイプの人にでも聴いてもらえる音楽、それがポップ・ミュージックさ」(ダニー)
「だからといって、『安っぽい』っていう意味ではないんだけど。昔だと、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドやモトリー・クルーもポップ・ミュージックだったんだからね。でも、今はTV の音楽オーディション番組のせいで、ポップ・ミュージックが駄目になってきてるんだ。『Pop Idol』とか『X-Factor』といったオーディション番組って、今までチャンスがなかった人達に機会を与える、素晴らしい番組だとは思うよ。ただ、カラオケ合戦みたいなジャッジの仕方やメディアの売り出し方が、下積みをしながら努力している才能ある他のアーティスト達をつぶしてしまっているんだ。だからこそ、僕達の作っている音楽はただのポップ・ミュージックだとは思いたくない。『ダーティー・フィルシー・エレクトロ・ポップ』なんだよ!」(クリスチャン)

 00 年代のイギリスと言えば、インディ/ エレクトロ・クロスオーヴァーの震源地となったことで知られている。しかし、ポップ・ミュージックという分野に関しては、90 年代以降、長らく停滞を続けていた。そう、上記の発言にもある通り、ここ最近ポップ・ミュージックとは、レコード会社が大量生産した楽曲をオーディション番組の勝者に歌わせるだけの安っぽい代物になってしまっているのだ。だが、そういった状況に業を煮やした優れたアーティスト達が、今、次々と創意工夫に満ちた「新しいポップ」を作り始めている。そういった動きの代表格と言われているのが、リトル・ブーツやラ・ルーなどといったアーティスト達。彼らの特徴は、マドンナやカイリー・ミノーグにも負けない華やかなポップ・センスを持ちながらも、エレクトロ、イタロ・ディスコ、80 年代ポップなどからの影響を咀嚼した刺激的なサウンド・プロダクションも合わせて持っていること。また、エレクトロをルーツに持ちながらも、よりディスコティックな歌モノ志向であるという意味では、現在イギリスのクラブ・シーンで流行中のニュー・ディスコ/ ディスコ・リヴァイヴァルに共振する存在とも言えるだろう。そして、自らの音楽を「ダーティー・フィルシー・エレクトロ・ポップ」と呼ぶこのキッズ・オン・ブリッジズも、そういったイギリスの新しいムーヴメントの中から登場した、エキサイティングなアクトの一組なのだ。

それでは、まず彼らの簡単なプロフィールから紹介していこう。このキッズ・オン・ブリッジズは、ダニーとクリスチャンからなる二人組。元々ダニーはスティープルズというインディ・ロック・バンドでギターを担当、そしてクリスチャンはフィールというインディ・ロック・バンドでヴォーカルを担当していた。

しかし、メンバー間の方向性の違いからバンドを辞めたクリスチャンは、エレクトロ系のソロ・プロジェクトを始めるべく、地元マンチェスターにあるエイリアン・サウンド・スタジオへと通い始める。最初は携帯電話に曲の元となるアイデアを録り溜めていたというクリスチャンだが、同スタジオのサウンド・エンジニアであるマーク・ウェインライトの協力を得て、そのアイデアを膨らませて新しいサウンドを構築することに成功。だが、あと少しで完成というところで、ディペッシュ・モードみたいなギターを入れたいという新しいアイデアが浮かび、同じく前のバンドを辞めていたダニーに参加を呼びかけたのである。
そして、ダニーの手によるファイナル・タッチが加えられて遂に完成したのが、彼らのデビュー作『This Is Widescreen』というわけだ。本作のプロデュースを務めているのはマーク・ウェインライトとクリスチャン、そしてサウンド・エンジニアにはケミカル・ブラザーズとの仕事で有名なスティーヴ・ダブが名を連ねている。

ちなみに、キッズ・オン・ブリッジズというユニット名の由来は、「僕が買ったばかりの車でマンチェスターを移動してる時、橋の上から子供達が真下の高速を走っている車にめがけて石を投げていて、僕の車もやられてしまったんだよね。そのハプニングから付けたんだ。それと、僕達もまだキッズだって言うことも表現したかったし、名前的に暗い北イングランドの都市って感じのイメージもあるしね」(ダニー)ということらしい。

とにかくまずはアルバムを聴いてみて欲しい。このキッズ・オン・ブリッジズが、ジャスティス以降のノイジーなエレクトロ勢とも、インディ/ エレクトロ・クロスオーヴァー系のロック・バンドとも、オーディション番組出身のポップ・アクトとも違う(勿論!)、完全なる新世代であることが、即座に理解できるだろう。何より特徴的なのは、こちらが面食らうほどにキャッチーなメロディ。

INXS やフェニックスの大ファンだという彼らの資質が全面的に開花した、王道のポップ路線だ。しかし、決して安っぽい印象を与えないのは、やはりサウンド・プロダクションに抜かりがないから。80 年代エレ・ポップ、ニューウェイヴ、エレクトロ、ヒップホップ、モダンR&B、ブリットポップなどからの影響を巧みに咀嚼したポップ・サウンドは、旧態依然とした従来のポップとは、完全に様相が異なっている。また、上記の影響源からも分かるとおり、彼らの音楽的な幅は本当に広い。だが、それで散漫になることなく、高い統一感でまとめきれたのは、「シンセ主体のエレクトロ・ポップ」というアイデンティティが、しっかりと築き上げられているからだろう。
また、彼らは自分達が発するメッセージ性にも意識的である。たとえば"Popstars"のリリックは、本稿の冒頭で彼らが揶揄していた、TVのオーディション番組が生み出すポップ・スターを皮肉ったもの。そして、彼らのテーマ・ソングとも言えそうな"Kids On Bridges" では、こんなテーマを歌っている。「僕らの世代って、電化製品でも、洋服でも、新しいものが発売されれば、みんながそれを買いに走る。そして、ちょっとでも古くなったりすると、すぐに捨ててしまうんだ。つまり、自分の間違いをすぐに他人のせいにして、与えられたものや環境に不満になっているだけ。それを自分でどうにかしようと努力しない世代なんだよ。この曲はそういう人達を客観的に見て作ったのさ。つまり、もっと自分を持って、ポジティヴになれ、って言いたかったんだ」(クリスチャン)。

優れたアーティストとは常に時代を映す鏡であり、世代を代弁する声である。
そういった役割意識に極めて自覚的という点においては、このキッズ・オン・ブリッジズは、間いなく優れたアーティストだと言うことが出来るだろう。

それにしても、この痛快な「ダーティー・フィルシー・エレクトロ・ポップ」を鳴らす彼らは、渾身のデビュー作を完成させて、今後はどこへ向かおうとしているか。最後に、それを訊いてみることとしよう。
「やっぱり音楽を永遠に続けたいよね。欲を言えば、ビートルズやローリング・ストーンズ位のレベルまでいきたいと思ってるけど!」(クリスチャン)
そう、目標は大きければ大きいほどいい。果たして彼らが、ケミカル・ブラザーズやアンダーワールドさえも飛び越え、ビートルズやローリング・ストーンズのレベルにまで届くことができるのか。このアルバムに胸を躍らせた我々は、その結果をしかと見届けることとしよう。

2009/06/07 小林祥晴 Yoshiharu Kobayashi

発売日:2009年7月 8日 / 品番:MUCX-1016 / 価格:1,980円(税込み) / CDアルバム